飲食店のダクト工事費用はどれくらい?【坪数別・業態別】

「飲食店の開業を考えているが、ダクト工事にいくらかかるのか見当がつかない」「見積もりをもらったが、この金額は適正なのだろうか?」 飲食店経営において、ダクト(排気・空調)は店舗の「心臓部」とも言える極めて重要な設備です。しかし、その費用は業種や物件の状態によって30万円から300万円以上と幅広く、不透明に感じられることも少なくありません。
本記事では、ダクト工事の専門家である広積空調工業が、坪数や業態(焼肉・中華・カフェなど)ごとの費用相場を徹底解説します。居抜きとスケルトンの違いによるコストの変動要因から、中間マージンをカットして安く抑える具体的なポイントまで、後悔しない店舗づくりのための「価格の正体」をプロの視点でお伝えします。
目次
そもそもダクト工事とは?
ダクト工事とは、建物内の空気の流れを制御するための「管(ダクト)」を設計・設置する工事のことです。人間でいえば「気管」や「血管」のような役割を果たしており、建物が正常に息をするために欠かせません。ただ管を繋ぐだけでなく、空気の圧力計算や風量の調整など、緻密な設計が求められる専門技術です。詳しくはこちらの記事で解説しておりますので、ぜひご覧ください。
https://kohseki-tsopro.co.jp/category/column/1652/
ダクトの役割と重要性
ダクトの主な役割は、汚れた空気、熱気、煙、湿気などを速やかに排出し、外から新鮮な空気を取り入れる「換気」にあります。特に飲食店においては、この循環が滞ると店内に臭いがこもるだけでなく、エアコンの効きが悪くなったり、最悪の場合は一酸化炭素中毒を引き起こす危険もあります。お客様に快適な空間を提供し、従業員の健康を守るためにも、ダクトは店舗の心臓部といえる重要な設備なのです。
ダクト工事が必要な建物・業種
オフィスビルや商業施設、工場、病院など、密閉された空間を持つほぼ全ての建物でダクト工事は必要です。その中でも、大量の火気を使用し、油煙や強い臭気を発する「飲食店」は、最も高いスペックのダクト設備が求められる業種です。一般住宅の換気扇とは比較にならないほどの排気能力が必要とされるため、飲食店の内装工事においてダクト関連は非常に大きなウェイトを占めることになります。
飲食店のダクト工事の種類と必要性
飲食店で行われるダクト工事は、用途によって主に以下の3つに分類されます。
換気ダクト(排気・給気)
調理場の煙を外に出す「排気」と、外気を取り入れる「給気」のバランスを整えるための工事です。実は「出す(排気)」ことばかり意識されがちですが、同量の空気を「入れる(給気)」ことが非常に重要です。このバランスが崩れると、店内の気圧が下がり、「入り口のドアが重くて開かない」「隙間風の音が鳴り止まない」といったトラブルが発生し、営業に支障をきたす原因になります。
空調ダクト
エアコンから出る冷暖房の風を、店舗内の隅々まで効率よく届けるためのダクトです。特にL字型の店舗や、個室が複数あるレイアウトの場合、家庭用エアコンのような壁掛けタイプでは温度ムラが生じやすくなります。天井裏に張り巡らされた空調ダクトを通じて、各スポットに適切な温度の空気を送り出すことで、どこの席に座っても快適に過ごせる「顧客満足度の高い空間」を作ることが可能になります。
厨房排気ダクトの重要性と火災リスク
飲食店で最も慎重な設計が求められるのが、厨房の排気ダクトです。調理中に飛散した油分は「グリスフィルター」を通り抜けてダクト内部に蓄積します。この蓄積した油に調理の火が引火すると「ダクト火災」となり、壁の内部を通って一気に建物全体へ燃え広がる恐れがあります。そのため、延焼を防ぐ「防火ダンパー」の設置や、油漏れを防ぐための丁寧な溶接、メンテナンスのしやすさを考慮した設計が不可欠です。
【結論】飲食店のダクト工事費用の相場
飲食店のダクト工事費用は、一般的に30万円〜300万円以上と非常に幅があります。これは「物件の広さ」だけでなく、「居抜きかスケルトンか」「何の料理を提供するか」によって必要な設備のスペックが劇的に変わるためです。なお、「ダクトの交換」であれば、既存性能を維持できるものへの交換となり、費用は比較的簡単に出すことが可能です。
【坪数別】工事費用の目安一覧
以下は、一般的な居酒屋を想定した機器代・工賃込みの相場です。
- 10坪〜15坪:50万円〜100万円 小型店舗であれば比較的安価に収まりますが、厨房機器が密集している場合は費用が上がります。
- 20坪〜30坪:100万円〜200万円 中規模店舗では、排気ルートが長くなることが多く、中間ファン(シロッコファン)の追加などが必要になるケースが増えます。
- 40坪以上:250万円〜 大規模店舗では、空調ダクトとの併用や系統の分割が必要になり、本格的な設備投資が必要です。
【業態別】(居抜き・スケルトン)による費用の違い
居抜き物件: 前店舗の設備がそのまま使える場合、20万円〜50万円程度の点検や部分改修で済みます。ただし、業態が変わる場合は容量不足で全面引き直しになることもあるため注意が必要です。
スケルトン物件: 何もないコンクリートの状態からルートを設計し、壁や天井を貫通させる工事も含むため、100万円〜200万円以上が相場となります。自由度は高いですが、その分コストも最大化します。
ダクト工事の費用が変動する要素
なぜ、店舗によってこれほど費用に差が出るのでしょうか。主な変動要因を比較表にまとめました。
| 変動要素 | 費用の傾向 | 理由・詳細 |
|---|---|---|
| 1. 業種・メニュー | 焼肉・中華 > カフェ | 油煙や熱気が多い業態は、強力な排気ファンと太いダクト径が必要になり、コストが上がります。 |
| 2. 物件の状態 | スケルトン > 居抜き | スケルトンはゼロからの設計・設置になるため高額です。居抜きは既存設備を流用できれば大幅に抑えられます。 |
| 3. 排気ルートの長さ | 屋上上げ > 壁出し | 1階の壁から出すより、屋上までダクトを伸ばす(屋上上げ)方が、材料費・足場代・人件費が積み上がります。 |
| 4. ダクトの仕上げ | 隠ぺい > 露出 | 天井裏に隠す(隠ぺい)場合は、懐の状況や他設備との兼ね合いで工数が増えます。あえて見せる「露出」の方が安価です。 |
| 5. 近隣対策の有無 | 対策あり > 対策なし | 住宅街や商業ビルなどで「消臭フィルター」や「防音チャンバー」を設置する場合、機器代と工事費が追加されます。 |
飲食店のダクト工事を安く抑えるためのポイント
費用が変動する要素について解説しましたが、それが分かったとしても、実際にはこれらのほとんどはどうすることもできない(業態は変えられないなど)ものです。では、どういったところで費用を抑えたらよいのでしょうか。ここではそのポイントを解説します。
居抜き物件を有効活用する
最も劇的にコストを抑えられるのは、既存設備の活用です。しかし、見た目が綺麗でも「前の店はカフェ、自分は焼き鳥屋」というように、油の量が激増する業態転換の場合は要注意です。既存の細いダクトでは煙を吸いきれず、後から全面工事を行うと結果的に高くつきます。居抜き物件を契約する前に、必ずダクトの「容量」と「内部の状態」を専門業者に診断してもらうことが、失敗しない節約のコツです。
「完全自社施工」の業者に依頼する
多くの内装会社やリフォーム会社は、ダクト工事を私たちのような専門業者に外注しています。そのため、大手に頼むと15%〜30%程度の中間マージンが上乗せされるのが業界の構造です。「完全自社施工」を掲げる専門業者に直接依頼することで、同じ品質の工事でも数十万円単位で安く抑えられる可能性があります。直接やり取りすることで、現場の細かい要望が伝わりやすいというメリットもあります。
定期的なメンテナンスで将来の修繕費を削る
初期費用だけでなく、長期的なコストに目を向けることも重要です。ダクト内部に油が溜まると、ファンのモーターに負荷がかかり故障を早めるほか、吸い込みが悪くなって光熱費も上がります。半年に一度程度の定期点検やグリスフィルターの清掃を怠らないことで、高額なファンの買い替えや、数百万規模の損害が出るダクト火災のリスクを最小限に食い止めることができます。
信頼できるダクト工事業者選びのチェックリスト
「安いから」という理由だけで業者を選ぶと、後で大きなトラブルに繋がります。以下の3点を必ず確認しましょう。
- 飲食店の施工実績が豊富か: 飲食特有の油煙対策や消防法、自治体の条例に精通しているかが重要です。
- 詳細な見積書と説明があるか: 「ダクト工事一式」ではなく、ファン、部材、人件費、諸経費などが細かく分かれているか確認してください。
- アフターフォロー体制: 工事後の吸い込み不良や異音に対して、すぐ駆けつけてくれるフットワークの軽さがあるかを確認しましょう。
まとめ:適正価格で安全な厨房環境を作るために
飲食店のダクト工事費用は、業種や建物の構造に大きく左右されます。見積もりが高いと感じたときは、ぜひ今回の「変動要素」を照らし合わせてみてください。 安さだけを追求して不適切な工事を行うと、後の火災事故や近隣トラブル、手直し工事でかえってコストが膨らむケースも少なくありません。まずは自社の業態に合わせた最適な設計を、信頼できる専門業者と相談し、納得のいく店舗作りを進めましょう。












