ダクト工事の手順は?発注者が知っておくべき知識

「店舗のオープンまでにダクト工事を終わらせたいが、どれくらいの期間が必要か?」「工事当日はどのような作業が行われるのか?」――。
ダクト工事は建物の構造や用途によって工程が大きく異なり、単に管を繋ぐだけではない緻密な計算と準備が必要です。
本記事では、ダクト工事の専門業者である広積空調工業が、お問い合わせから完了検査までの「5つのステップ」を徹底解説します。
特注部材の納期管理や現地調査の重要性、そして手抜き工事を防ぐためのチェックポイントまで、施主様が知っておくべき全情報をまとめました。
目次
ダクト工事の全体的な流れと期間
ダクト工事は、単に管を取り付けるだけでなく、事前の緻密な計算と、施工後の厳格な検査が必要な専門性の高い工程です。
一般的に、お問い合わせから工事完了までは最短でも2週間〜1ヶ月程度を要します。
ダクト交換であれば一日で完了する場合もあります。
標準的な工事期間の目安
実際の取り付け施工自体の期間は、小規模な店舗であれば1日〜3日程度、大規模な施設やビル全体であれば数週間から数ヶ月に及ぶこともあります。
しかし、これには「現地調査」「図面作成」「特注部材の製作」といった準備期間が含まれていません。
特に特注サイズのダクトが必要な場合は、製作だけで1週間以上かかることもあるため、スケジュールには余裕を持つことが重要です。
お問い合わせから工事完了までの5ステップ
工事は大きく分けて以下の5ステップで進みます。
- 現地調査・ヒアリング: 現状の把握と要望の確認。
- 設計・御見積: 風量計算に基づいた図面作成と費用算出。
- ご契約・部材発注: 内容合意後、必要な資材や特注ダクトを手配。
- 取り付け施工: 現場でのダクト吊り込み・機器設置。
- 完了検査・引き渡し: 試運転を行い、設計通りの性能を確認。
【ステップ1】現地調査と設計・図面作成
ダクト工事の成否は、この「ステップ1」で8割決まると言っても過言ではありません。
現地での正確な採寸と、建物の構造を理解した上での設計が不可欠です。
現場の状況確認(既存設備・建物の構造)
まずは現場へ伺い、天井裏のスペース(懐)の高さや、梁の干渉、既存の配管ルートを徹底的に調査します。
特に飲食店の場合、厨房機器の配置とダクトの位置が10cmずれるだけで吸い込み効率が劇的に悪化するため、詳細なミリ単位の計測が行われます。
また、壁や床の貫通が必要な場合は、建物の構造強度(スリーブの有無)も同時に確認します。
用途に合わせた最適な風量計算とルート設計
現場調査の結果に基づき、**「必要風量計算」**を行います。
調理器具の熱量や店舗の広さに合わせ、どのくらいのパワーで排気し、どこから給気するかを計算します。
ダクトの径が細すぎれば騒音の原因になり、ルートが複雑すぎれば排気効率が落ちるため、空気抵抗を最小限に抑えた最短かつ最適なルートをCAD(図面ソフト)を用いて設計します。
近隣環境の確認(排気口の位置や騒音対策)
忘れがちなのが、店外(排気出口)の調査です。
排気口のすぐ近くにマンションのベランダや他店の吸気口がある場合、臭いや騒音がクレームに直結します。
必要に応じて、消臭装置の導入や消音ボックスの設置、排気方向を上向きに変える「屋上上げ」などの対策をこの段階でプランニングし、近隣トラブルを未然に防ぎます。
【ステップ2】見積もり・契約と部材の発注
設計図が完成したら、具体的な費用の算出と部材の手配に移ります。
ここで透明性の高い見積もりを出してくれる業者かどうかが、信頼の分かれ目です。
見積書のチェックポイント:不明瞭な「一式」に注意
見積書を確認する際、「ダクト工事一式」という表記だけで金額が書かれている場合は注意が必要です。
優良な業者であれば、ダクトの長さ(m)、ファンの個数、防火ダンパー等の安全装置、足場代、人件費、諸経費といった内訳が明確に記載されています。
何にいくらかかっているのかを把握することで、予算オーバー時の調整も行いやすくなります。
特注ダクトの製作と資材の確保
ダクトの多くは建物の形状に合わせて製作される「特注品」です。
契約が成立すると、設計図に基づき工場でダクトの製作が始まります。
近年は資材価格の高騰や半導体不足によるファンの納期遅延が発生しやすいため、早めの発注が工期を守る鍵となります。
自社工場を持つ業者であれば、この工程のリードタイムを短縮できるという強みがあります。
【ステップ3】ダクトの取り付け施工(当日の手順)
準備が整い、いよいよ現場での施工です。
安全管理と、他の内装業者との連携が重要になるフェーズです。
養生と足場設置(現場の安全確保)
施工開始にあたり、まずは現場の保護(養生)を行います。
床や壁、既存の什器を傷つけないようブルーシートやプラベニヤで覆います。
また、天井付近の高所作業となるため、脚立やローリングタワー(移動式足場)を設置します。
この際、作業員が安全に動けるスペースを確保し、他の内装業者の邪魔にならないようタイムスケジュールを共有します。
ダクトの吊り込み・接続作業
工場で製作したダクトを天井から吊り下げて固定し、一つずつ接続していきます。
継ぎ目から空気が漏れると排気能力がガタ落ちするため、コーキング材やアルミテープを用いて確実に密封します。
また、ダクト自体の重みでたわまないよう、規定の間隔で吊り金具を設置します。
この「気密性」と「堅牢性」を保つ作業こそ、職人の腕の見せ所です。
ファンの設置と電気結線・防火ダンパーの取り付け
ダクトの「心臓」である排気ファン(有圧換気扇やシロッコファン)を設置します。
振動が建物に伝わらないよう防振ゴムを挟むなどの処置を行い、電気結線を行います。
さらに、火災時に炎がダクトを伝うのを防ぐ**「防火ダンパー」**を法的に定められた位置に設置します。
これらの安全装置の取り付けミスは人命に関わるため、二重のチェック体制で臨みます。
【ステップ4】試運転と調整・完了検査
取り付けが終わっても、まだ完成ではありません。
設計通りのパフォーマンスを発揮しているかを確認する「仕上げ」の工程が必要です。
風速・風量測定による設計値の確認
すべての接続が完了したら電源を入れ、専用の風速計を用いて吸込口の風量を測定します。
設計時に計算した「必要風量」に達しているかを実測値で確認する作業です。
もし風量が足りない場合は、ファンの回転数調整やダンパーの開度調整を行い、最適な状態に追い込みます。
数値でエビデンスを残すことで、施主様にも安心感を提供します。
異音・振動・空気漏れの有無をチェック
フルパワーで稼働させた際、ダクトの継ぎ目から「ピー」という風切り音がしていないか、ファンから異常な振動が出ていないかを確認します。
これらは将来的な故障やクレームの原因になるため、現場で徹底的に潰し込みます。
また、ジョイント部を一つずつ目視と手触りで確認し、空気漏れが一切ないことを最終確認します。
消防・保健所の検査への立ち会い
飲食店の場合、開店前に保健所や消防署の検査を受ける必要があります。
ダクトが防火基準を満たしているか、換気量が規定に達しているかがチェック項目となります。
私たちは専門業者として、検査当日に立ち会ったり、提出用の書類(施工証明書や図面)を準備したりすることで、オーナー様がスムーズに検査をパスできるよう全面的にサポートします。
ダクト工事の手順で費用・工期が変動するポイント
工事の手順自体は共通していますが、現場の条件によって追加の工程が発生し、費用や工期が変動します。
| 変動要因 | 影響する工程 | 費用・工期の傾向 |
|---|---|---|
| 1. 高所作業・屋上上げ | 足場設置・外部施工 | 大幅アップ。 1階壁出しより、屋上まで伸ばす方が足場代や高所作業車代がかさみます。 |
| 2. 夜間・休日工事 | 施工タイミング | 1.2〜1.5倍程度。 商業ビルなど日中の作業が禁止されている場合、割増賃金や深夜の搬入費が発生します。 |
| 3. 既存ダクトの撤去 | 施工前工程 | 追加費用あり。 スケルトン工事や改修の場合、古いダクトの解体・産廃処分費と、そのための工期が1〜2日加算されます。 |
| 4. 消臭・防音装置 | 機器設置工程 | 機器代+追加工数。 特殊なフィルターユニット等の設置には、専用の架台製作や接続工数がプラスされます。 |
発注者が知っておくべき「手抜き工事」を防ぐチェックリスト
工事完了後、天井が閉じられると中身は見えなくなります。
手抜き工事をされないための確認ポイントをまとめました。
ダクトの継ぎ目(フランジ・ハゼ)の処理は丁寧か
ダクト同士の接続部分(継ぎ目)がしっかり密閉されているか確認してください。
ここが雑だと、将来的にそこから油が漏れて天井を汚したり、吸い込み不足の原因になります。
施工中に「隙間なくテープやコーキングがされているか」を確認したり、写真を撮っておいてもらうよう依頼するのが効果的です。
防火ダンパーや点検口が適切な位置にあるか
火災拡大を防ぐ防火ダンパーが、メンテナンス可能な位置にあるかは死活問題です。
また、ダクト内部の清掃を行うための「点検口」が要所に設けられているかもチェックしましょう。
点検口がないと、数年後の清掃時にダクトを壊さなければならず、結果的に多額の維持費がかかってしまいます。
施工写真の提出(隠ぺい部の記録)があるか
信頼できる業者は、天井を閉じる前や壁の内部など、完成後に見えなくなる部分の施工写真を必ず撮影しています。
「全工程の施工写真を、報告書として提出してくれますか?」と契約前に確認するだけで、業者の意識は高まり、手抜き工事の強力な抑止力になります。
まとめ:正しい手順の理解が、長く安全に使えるダクトへの近道
ダクト工事の手順は、「調査・設計・施工・検査」のどれ一つ欠けても成り立ちません。
正しい手順を踏むことで、排気効率の最大化、火災リスクの低減、そして近隣トラブルの回避が可能になります。
「見積もり段階で手順の説明が丁寧か」「試運転の測定までしっかり行ってくれるか」といった視点で業者を選ぶことが、結果として最もコストパフォーマンスの高い工事に繋がります。
不安な点があれば、まずはプロの業者へ現場調査を依頼することから始めましょう。












